S弁護士、T・N・O司法書士へ。
2024(R6)年11月頃の内容に類似の別の話題が出てきたので再掲します。
なお、前回に加えて、T司法書士が提示した判例を取り込み「遺産分割は、現実に属する個々の財産の帰属をどのようにするべきかを決定するもの」であるから、いまだ過渡的な相続人という地位はすくなくともディフォルトでは含まれないというボクの足場を固めました。
次に「登記原因証明情報兼登記承諾書」の贖罪ではないですが、こういったなんでもかんでも混ぜ込んでせめてくる輩に対する防御策として「登記書類は直接証明でなければならない論」をkasasagiが持ち出します。もって、B説2-1のためらいの外観が浮き出たと思います。
また、問題は当事者がどのような意思にあったかではなく「登記が通る」かです。したがって、当初の質問1の述語をより明確に「・・・と登記官は判断するか」と加えました。おそらくこれは法律問題だけではない気がします。文章問題以外に登記添付書類のルールと形式的審査権たる登記官の見方の問題があるのは確かです。
kasasagiは、「よくない」とまともに答えませんが、登記が通るか/通らないかの前に適切な表現(抜き差しのならない表記)はどういったものになるかをはじめに抑えておいた方がよさそうです。

【事例】
- 1-1 被相続人甲(S40死亡):法定相続人は長男A・次男B0の二人。 (遺産分割協議はしていない。遺産などないものと思っていたかもしれない)
- 1-2 被相続人B0(H21死亡):法定相続人は長男B1・次男B2の二人。
- 2 被相続人B0につき、次の遺産分割協議が成立した。「1 被相続人乙の遺産の一切はB1が取得する。 2 B1はこの遺産を取得する代償としてB2に対し金一千万円を支払う。」
- 3 被相続人甲の✕✕✕の土地につき、遺産分割協議をしたい。
【ご質問1】
このような被相続人B0の遺産分割協議があることが前提で、B2は、被相続人甲の遺産分割協議の当事者となるか/それともならないか(※1)…被相続人乙の遺産分割協議の対象には、甲の遺産についての法定相続分が含まれている《と登記官は判断する》か。
A説:登記官は、その遺産の一切は分割協議前の法定相続分も含むと判断する。 B2の「遺産分割対象財産に甲の相続分が含まれているとは認識していなかった」という錯誤取消の余地あるかもしれないことを危惧するだろうが。
B説:登記官は、遺産の一切が分割協議前の法定相続分も含まれないかもしれないと判断する。 (したがって、却下される)
【ご質問2】
B説に立つ人は次ならどうか。
「遺産の一切(相続人の地位を含む)は…」 ※2-1
- B説1:それなら、登記官は分割協議前の法定相続分も含まれると判断する。
- B説2:それでも、却下する。
【ご質問3】
B説2に立つ人は、次ならどうか。
「遺産の一切(甲(平成4年4月4日死亡)の相続分を含む)は…」 ※2-2
- B説2ー1:それなら、登記官は分割協議前の法定相続分も含まれると判断する。そりゃそうだろう、そのように書いてあるのだから。通る。
- B説2ー2:それでも、却下する。・・・ということは問題は別のところにあるのだろう…
- B説2ー2kasasagi:よくない。なんだ、その回答は。
【質問1の回答】
T司法書士・N司法書士・O司法書士・私はB説、つまり司法書士は全員B説、迷うことなく。
いっぽう、S弁護士はA説で以下。
1 本件の問題は、「B0を被相続人とする遺産分割協議の対象に、甲の遺産についての法定相続分が含まれるか」と思われます。
2 当該遺産分割協議書の対象は、一切の遺産であり、分割協議前の法定相続分も含まれるものと考えます。
3 したがって、甲の遺産については、AとB1にて有効に分割協議が可能と考えます。
4 B2の保護としては、「遺産分割対象財産に甲の相続分が含まれているとは認識していなかった。」として錯誤取消の主張が可能かも知れません。
【質問2の回答】
O司法書士とT司法書士以外は皆B1説(私も)、皆 ためらって。
O司法書士は未着。T司法書士は沈黙
【質問3の回答】
T司法書士はためらってB説2ー1を採る。B説2ー2を採らない。
【B説2ー2kasasagi】
よくない。
相続分譲渡の間接証明にはなるが、直接証明たる「相続分譲渡証明書」が別途求められよう。
添付書類ルールは、直接証明が必要で間接証明はダメなのだ。
質問1について。遺産分割協議は、現実に遺産に属する個々の財産の帰属をどのように定めるかにつき決定するものである(東京高等裁判所 昭和41年(ラ)第583号参照)。「一切の遺産」は、あくまで個々の具体的な財産を指すものであり、相続人という地位そのものを含むものではない。
遺産分割協議(遺産分割協議書)と相続分の譲渡(相続分譲渡証書)はちがう。
質問2について。 この「遺産の一切(相続人の地位を含む)」に、甲の相続分のことを含めている可能性は大いにあるだろう。しかし広すぎる。一切じたいは広くこれは許されるが、拡大するにもほどがある。このサジ加減は、昭和56年5月21日法務省民三第3124号民事局長通達における「登記申請の包括委任状についてー不動産登記に関する最近の主要通達の研究・藤谷」と通じます。
質問3について。 限定的に「甲(平成4年4月4日死亡)の相続分を含む」としているから、当事者は被相続人甲の相続分をB1に取得させるという意思にあることになる。しかし、まず当事者意思云々は措くして、これがどういう状態かというと、本来遺産分割協議書ですることではない代物に相続分譲渡を混ぜ込んだ状態ということはいっておく。登記原因証明書と登記委任状を1枚に紙に書いてしまうことと似ている。したがって、当事者にはこのことを説明して別々の書面にすることを促すべきであることを言っておく。
通してしまった「登記原因証明情報兼登記承諾書」もそうだが、これを同等に扱うなら遺産分割協議書兼相続分譲渡証書とするべきである。なお、タイトルだけ変えても中身がついてこない。逆を言えば中身がついでくればよいことになる。
遺産分割協議書に「他に子なき旨の証明書」を混ぜ込む実務が横行しており、これと同等に扱って本件が通ることを否定するものではありません。つまり、登記原因証明書、登記委任状又は登記承諾書は「のみ書面」であり、相続証明書はのみ書面でないことが関係します。
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