昭36年(1018)大阪高裁(コメント)

【索引】抵当権付建物の滅失登記

昭和34年(ネ)第1290号
標記判決文、①LLI②LGのものを掲載しています。

要旨を見ると、登記所を被告とした行政訴訟かと勘違いしました。
全文で建物所有者が抵当権者に対する裁判だとわかります。しかし、後述三のとおり変な裁判でした。

一判決文から、概要を推測しました。

(間違っているかもしれません)。

1 建物所有者・褒徳信用組合(ほうとく・後の大阪信用組合)
  抵当権者・A社(書かれていない)
  神戸市復興土地区画整理事業、計画道路のため建物が邪魔になった。
  借地だと考える。
  抵当権設定契約書には、次のように書かれている。

  第3条(抵当物件の処分・変更の禁止)
  乙は、甲の書面による事前の承諾がなければ、本件不動産の現状を変更し、譲渡し、又は第三者のために権利を設定しない。

2 褒徳信用組合は区画整理事業上建物を取り壊さなければならないが、契約上抵当権者Aの承諾が必要。残債はかなりあるとしよう。代担保がないからなのか事情はわからないが、抵当権者Aは取り壊しの承諾をしてくれない。そこで、提訴。

3 一審中に土地区画整理事業の施行に伴う除却命令により取り毀わされた(取り壊した)。そこで「本件建物の滅失登記申請につき不動産登記法第146条第1項の同意を求める」というように訴えを変更した。

二当時の法令状況

1 昭和26年法律第150号による不動産登記法改正前(いわゆる大福帳のときである。カササギ)は、その建物の登記用紙に「所有権以外ノ権利ニ関スル登記アルトキハ申請書ニ其登記名義人ノ承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルコトヲ要ス」ることとなっていた(判決文より。原文をみていない-カササギ)。だから、昭和26年の時代は滅失登記をする際に抵当権者Aの承諾書が必要だった。しかし、この改正で削除された。

2 削除後の該当する条文が146条であり、それは次である。なお、権利に関する節にある条文である。また、現行法は68条である。
旧不動産登記法第146条 登記ノ抹消ヲ申請スル場合ニ於テ其抹消ニ付キ登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者アルトキハ申請書ニ其承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スルコトヲ要ス尚登記ノ抹消ニ付キ利害ノ関係ヲ有スル抵当証券ノ所持人又ハ裏書人アルトキハ其者ノ承諾書又ハ之ニ対抗スルコトヲ得ヘキ裁判ノ謄本ヲモ添附スルコトヲ要ス

【不登Q&A選(7版)】Q36によると、次のように書いてある。
「取り壊した建物に抵当権等の第三者のための登記がされている場合には、当該建物の滅失を証明する資料の一部として抵当権者等の承諾書(印鑑証明書付き)の添付を求める登記所もあります。」

 驚きです。名古屋は求めない…が…(いや、名古屋も承諾書を提出せよとまではされないが求められている。ここ)

 なお、括弧書きで次が加わる。

「(抵当権者等の承諾書の添付がないからといって滅失登記が受理されないというものではありませんが、その場合には、登記官が実地調査をして建物が滅失していることを確認して登記を完了します)」

 大阪法務局は、抵当権者Aの承諾書(印鑑証明書付き)の添付を求めたのではないだろうか(といううかそういう管内通達があることにします)。

三 

変な裁判というか、変な対象物だと思いました。

1 褒徳信用組合の弁護士が(または司法書士が)、旧不登法146条が権利登記を指し表示を登記を指さないことを知らず又は大阪法務局の滅失登記に抵当権者の印鑑証明書付の承諾書が必要という取扱事務に素直にしたがい、このような控訴内容にしなければならなかったという点は、措きます。

2 私が変だと思ったのは、第一審の対象物(訴訟物)です。
第一に、抵当権契約書の第3条で、そのような承諾が必要とされているから建物所有者は承諾を求めたいことはわかります。しかし、取り壊さなければならないことが収用に近いことにあっても抵当権者には承諾する義務はありません。
したがって、第一審は、義務がないことをさせられないという-訴えの利益がないという理由で却下されるべきです。

第二に、私は上述で「大阪法務局は、抵当権者Aの承諾書(印鑑証明書付き)…そういう管内通達があることにします」としました。そして、原告褒徳信用組合弁護士は建物取壊し後に、この管内通達はおかしいと判断し、抵当権者Aの承諾書を添付ないで滅失登記を申請したとします。大阪法務局は抵当権者Aの承諾書がないことを理由に却下するとします。この場合、褒徳信用組合の弁護士は、抵当権者を被告にするのではなく、登記却下に対する行政裁判になります。

第三は、第二の裏です。原告褒徳信用組合弁護士は建物取壊し後に、この管内通達にしたがって、かかる通達で、被告抵当権者Aは既に取り壊された建物であることを理由にこの滅失登記の承諾をする義務があることを理由に訴訟を提起することになります。つまり、本登記をする際の遅れる仮登記の承諾を求める裁判です。