昭32(1227)2440

要旨:相続又は会社合併後の弁済にかかるものは、抵当権の承継の登記を経なければ抹消の登記申請をすることはできない。


全文:昭和32年10月29日付庶第3385号長崎地方法務局長照会・昭和32年12月27日付民事甲第2440号民事局長回答
抵当権登記の抹消について
【1598】 標記の件について、次のとおり疑義がありますので、至急何分の御教示をお願いいたします。  記
 相続又は会社合併による抵当権移転の登記未了の場合、相続又は会社合併を証する書面を添付したときは、相続又は会社合併後弁済にかかるもので、抵当権移転登記の申請をさせないで直ちに抵当権抹消の登記はできないでしようか。
回答
昭和32年10月29日付庶第3,385号をもつて問合せのあつた標記の件については、相続又は会社合併による抵当権の承継の登記をした上で、抵当権抹消の登記を申請すべきものと考える。


登記研究123号28頁(解説)抵当権の登記の抹消は、原則として、物件所有者(登記権利者)と抵当権者(登記義務者)の共同申請によることを必要とすることは、不動産登記法(以下「法」と略称する。)第二六条の明定するところである。

 従って、抵当権者の死亡による相続、合併(法人の場合)による承継、被担保債権の譲渡等の原因により抵当権が移転し、抵当権者に変更があったが、その移転の登記をしない前に、弁済その他の原因により抵当権の消滅の事由が生じた場合には、実体的には、当該承継後の抵当権者が抹消登記の登記義務者であることは自明の理であるが、抵当権の移転の登記をしないで、自己が当該抵当権の承継者(抹消登記の登記義務者)であることを証する書面を申請書に添付して、抹消登記の申請があった場合、受理登記してさしつかえないかどうかが、本件照会の趣旨と解される。

 第一の問題点は、法第二六条にいう「登記義務者」の意義であるが、ここにいう「登記義務者」とは、当該登記をすることによつて直接不利益を受ける登記上の当該権利の登記名義人を指称するもので、実体上の登記義務者を指称するものでないことは異論のないところであろう。

 第二の問題点は、所問のごとく、抹消登記の目的である抵当権についての相続又は一般承継を証する書面を申請書に添付した場合、当該抵当権の承継者が登記義務者となつて、抹消登記を申請することができるかどうかである。法第四十九条第六号の規定によれば、「第四十二条ニ掲ケタル書面ヲ提出シタル場合ヲ除ク外申請書ニ掲ケタル登記義務者ノ表示カ登記簿ト符合セサルトキ」には、当該申請を却下すべきものとしており、この場合の「第四十二条ニ掲ケタル書面ヲ提出シタル場合」というのは、いうまでもなく、被相続人において登記義務を負担し、その登記義務を相続人が承継した場合をいうのであつて、これを抵当権の抹消登記についていえば、被相続人の抵当権が弁済等によつて消滅し、その抹消登記の義務が生じたが、抹消登記をしないうちに相続が開始し、相続人が抹消登記義務を承継し、その承継人として登記を申請する場合である。しかして、この場合には、当該抵当権を相続人が承継しているのではないから、相続人名義に移転登記ができないので、当該抵当権の登記が相続人名義になつていなくても、相続人が登記義務者(正確には登記義務者の承継人)として申請してもさしつかえないのである。しかし、相続人が抵当権を取得した後当該抵当権が消滅した場合には、相続人が正に登記義務者になるのであり、この場合は、「申請書ニ掲ケタル登記義務者ノ表示カ登記簿ト符合」していることを要するのである。その趣旨は、当該申請に係る登記により登記上直接不利益を受ける者の申請によらなければ、登記をしないこととして、登記の真正を保証せんとするものである。

 権利の承継人がその登記をしないままで抹消の登記の申請を認めるとすると、登記官吏は、形式的審査において、当該抵当権が登記義務者に移転していることを認定することが適当でないのである(相続人からの申請であるとしても、真実に相続人に抵当権が移転したものであるかどうかは、当該抹消登記の申請書に添付される書面のみによつては確認することはできない)。

 従つて、抵当権の移転登記を省略しての登記申請は、申請書に掲げたる登記義務者の表示が登記簿と符合しない状態でなされることとなるので、正に法第四十九条第六号の規定に抵触することとなり、更に又、右の申請に基いて登記される登記上の形式は、登記上の権利名義人(抵当権者)が弁済を受け又は抵当権を放棄した形(原文ママ)当該登記がなされる結果、実体上の権利変動を如実に公示する登記制度の原則にも反する不都合が生じ、登記上の権利関係を混乱に導く虞れがあるである。

 かかる見地から、本件に関する民事局長の回答も、「相続又は会社合併による抵当権の承継の登記をした上で、抵当権抹消の登記を申請すべきもの」とされたものであろう。

 なお、抵当権の登記を抹消する場合に、登記義務者の住所が変更しているときは、その変更を証する書面を添付すれば、名義人の表示変更の登記を要せず、直ちに抹消登記を申請することができる旨の先例(昭和三一、九、二〇民事甲第二、二〇二号民事局長通達)があるが、この場合は、単に抵当権者の住所、氏名(名称)に変更が生じているのみであつて、抵当権者自体には何らの変更も生じていないのであるから、その変更を証する書面を添付せしめて抹消登記をしたとしても、前述のごとき矛盾は生じないので、事務簡素化の意味において、変更登記の省略が認められているものであろう。(内海)

sites/21057075