登記申請の包括委任状についてー不動産登記に関する最近の主要通達の研究

登記先例解説集257号(1983号)
藤谷定勝(法務省民事局第三課係長)
sites/21036809

研究
1 本件照会の趣旨と問題点
(1)照会の趣旨
(2)実体的に包括委任することは可能か
(3)代理権限証書としての適格性の要件とは
  イ形式的要件/ロ実質的要件/ハその他の記載事項/ニ実態に適合した包括委任状が代理権限証書として適格性を欠く理由
(4)金融機関の場合に多い包括委任が認められた先例
(5)個人について認められた昭和27年の先例

2 本件についての検討
(1)本件と類似した例としての登記課長会同での議論
(2)本件通達の出された経緯と白紙委任状等の乱用
(3)実体法上有効とされても登記手続上できることが前提
(4)代理権限証書としては委任事項が具体的に記載されていることが必要
(5)登記官が法律等による代理権限について判断できることの前提
(6)代理権限の有無について登記官が形式的審査で判断できることが認定の基準か


(中略)

司会

この照会の要旨としては、住宅金融公庫から金銭消費貸借契約の締結とか担保権設定契約の締結、担保権の設定、移転、変更、処分、更正、回復または抹消の登記の申請等の包括委任を受けている金融機関が、その包括委任に基づいてさらに特定の個人を登記の申請等の復代理人として選任した場合に、その代理権限証書がたまたまこの照会の場合のように包括委任状であったときにはたして登記の申請書に添付する委任状として適格性があるかどうか、ということですね。

(中略)

藤谷

委任の範囲というのは具体的な委任行為によって決まってくるわけですが、委任によって与えられる代理権というのは、個々の特定事項に限って、あるいは一定の範囲の事項について包括的に与えるということができるようになっています。したがって、実体法上は包括的な委任も可能である、というふうに解されています。

(中略)

司会

そうしますと、実際に登記の分野では、ただいま説明いただいたように、ある面においては具体的な登記事項が記載されているような委任状でなければダメだということになるわけですが、先ほど説明いただいたように実体法上は包括的な委任は可能だということになっている。しかし、包括的な委任は可能だと言いながら、登記の申請書に添付する委任状としては、形式的な要件と実質的な要件が備わっていなければ実際は適格性がないのではないかといわれることになるわけです。実体的に包括委任が可能だとした場合には、そういうことを記載した委任状は、代理権限証書として適格性を欠くというのは、理論的にはおかしいような気もするのですが。

(中略)

藤谷

そのあたりは確かにいわれるとおり理論的に不審を持たれる方も多いと思います。実体法上そういった包括委任が可能である、有効だということですが、そのことを端的にあらわした委任状が登記申請に関しては適格性を欠くという根拠は理論的には説明しにくい面があろうかと思いますが、やはり手続法たる登記制度の要請から来ているのではないかと思います。

つまり、登記官は形式的な方法で書類の審査をするということですから、委任状に記載されている事項に基づいてはたして受任者に代理権があるのかどうか、あるいは委任されたとおりの登記の申請がされているのかどうかを形式的に判断するということになるので、委任状にその具体的な委任事項というのが記載されていない、包括的な形でしか記載されていないということになれば、それがまさに正しい委任された事項に基づいた登記の申請であるかどうかということを判断するのが形式的に容易でなくなってしまう、そしてまた、判断を誤るということにもなるのではないかというような感じがするわけです。したがいまして、登記申請書に添付する代理権限証書としては、具体的な委任事項が明確に記載されていることが望ましく、登記事務を適正、迅速に処理するために登記法はそのような具体的な書面を提出することを要求しているのではないかと思うのです。

以上

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